今日は頑張った、、、気がする。
学会編集業務、会議で気づいたこと対応、で午前中が終了。
書類提出、修論論文化に向けたワラジムシ類の種同定、新しい実験の準備、で終了。
先日の福岡出張の際に電車で読んだ本。
なぜ蚊は人を襲うのか (岩波科学ライブラリー)
蚊、刺されると痒くなる嫌なヤツであるが、地球上で最も多くヒトを殺す動物という側面もある。
その蚊による感染症の防除を目指す研究者の書籍である。
蚊の基本的な生態、著者の調査の体験談から最先端技術を用いた防除法まで幅広い内容が分かりやすく書かれている。
黄熱病を研究し黄熱病に罹患して亡くなった野口英世。黄熱病は黄熱ウイルスを保因する蚊に刺されることで感染する。つまり、野口英世もまた蚊によって亡くなった一人である。
平家物語の記述から平清盛は蚊によって媒介されるマラリアによって亡くなった可能性が高い。
明治維新の立役者である西郷隆盛は、蚊が媒介する糸状虫によるフィラリア症に感染していたらしい。これにより陰嚢が肥大していたため、西南戦争で自決後、首が無いにもかかわらず、西郷隆盛であると認定できたそうだ。
このように、蚊による感染症は熱帯地方だけの出来事ではなく、日本においても脅威となってきた。ワクチンの誕生により大きな脅威ではなくなったが、日本脳炎もまた、蚊により媒介される感染症である。
蚊の特徴の一つは、いつの間にかヒトの近くに寄ってくるヒト探索能力の高さであるが、二酸化炭素、匂い、熱を使って標的を見つけているそうだ。このセンサーは極めて高性能で、二酸化炭素に関しては、0.01%から4.0%と400倍の濃度幅を0.01%単位で敏感に感知できる。
また、蚊は繁殖時期のメスのみが血液を吸う、つまり、他にも口にすることができるのだが、血液とそれ以外を区別するのにATP(ADPとAMPも)を感知する仕組みを持っていることが分かっている。恐るべき、吸血マシーン。
そして、人類は、こんな最強スペックを持つ厄介な難敵の防除を試みてきた。
感染症を防ぐには、蚊が存在していても刺されなければ良く、蚊帳という古典的防除が感染症の防除に極めて有効であることが分かっている。
しかし、なかなか普及しないのが現実らしい。原因は、蚊帳を漁網に利用したり、金銭に換えてしまうという経済的な問題や、常に蚊に刺されていると痒みを感じなくなるため、蚊帳を張ることが煩わしくなるという生理的現象も関係しているようだ。
そこで、やはり、蚊自体を減らす方法の開発が進められている。
例えば、蚊の幼虫は水中で生育するのだが、その水面をビーズで覆ってしまい酸素不足にするという、斬新なアイデアが開発され、大きな成功を収めたそうだ。似た話で、パナマ運河を建設する際に、蚊を防除するために片っ端から油を巻いたアメリカは建設に成功し、これをしなかったフランスは撤退を余儀なくされた。
また、近年では、蚊はメスのみが吸血する、メスは一生に一回だけ交尾をする、という習性に着目して、遺伝子操作による不妊オスやボルバキア感染オスを訪虫することで、根絶や感染症を保因しない集団への入れ替え法などが試みられ始めている。
個人的には生態学的観点からの防除がとても興味深く感じた。基礎研究と応用研究が絡み合ったとても良い例であり、理想的な研究のあり方だと思った。
蚊について網羅的に書かれているわけでないが、蚊を研究する、意義を知るとても良い本。おすすめです。
もくじ
1.その蚊、危険につき
2.蚊なりのイキカタ
3.標的を発見!
4.蚊が血を吸うわけ
5.病気の運び屋として
6.蚊との戦いか、共存か