2019年5月15日水曜日

生物群集の理論: 4つのルールで読み解く生物多様性

午前
・授業準備
・個人ゼミ

午後
・学会準備
・標本整理(実習で採集したもの)
・授業準備


生物群集の理論: 4つのルールで読み解く生物多様性

Vellend (2016) The Theory of Ecological Communities の訳書である。英語版を読んだことがなかったが、この本が日本語で読めるようになったのはとても嬉しい。

とても面白い!必読の一冊。

訳者まえがきに書かれているが、原著に忠実に訳したそうで、Amazonのレビューにも日本語について指摘されている。私には読みやすかったが。

群集生態学の主要な目的は、ある場所に生息する種数を決定するメカニズムを説明することにある。

自然科学の目的は、複雑な自然現象を簡潔な法則で表すことであり、群集生態学もまた上記のメカニズムをより簡潔な法則で説明しようと試みてきた。

その結果、、、数十の理論・モデルが生み出されてきた(本書に24個が紹介されている)。

これだけ多くの理論・モデルが存在しているということは、「ある場所に生息する種数を決定するメカニズム」を説明する法則はない、と言いたいぐらいである。

しかし、筆者は、個々の現象を生じさせるプロセスは多様であるが、種数を決定するプロセスは「種分化、分散、浮動、選択」の4つで説明できると主張する。前者を低次プロセス、後者を高次プロセスと呼んでいる。

つまり、過去に提出された理論・モデル(低次プロセス)は、4つの高次プロセスの大小の違いを反映したものと捉える。例えば、競争排除則は、一方の種に負の「選択」が働き排除される、みなすことができる。


進化生態学では、自然選択(+遺伝的浮動、移入、変異)を高次プロセスとして、工業暗化や適応放散の個々の事例(低次プロセス)を研究していると考えると納得しやすい(本書では、集団遺伝学との関係が示されている)。

この理論を適用すれば、ある地域に生息する種数を推定できるというものではないが、種数を決定するプロセスを考える上で極めて有用である、、、4つの要因を考えれば良いだけなので。

また、本書は、その主目的である理論を学ぶだけでなく、過去に提出された数多くの理論・モデルを整理するのにも非常に役立つ。

さらに、8〜10章は実証的証拠が示されているが、仮説、予測、方法、結果、で書かれており、理論的に考える力を養うのにも使えそう。

良いところだらけの本あるが、この理論にもいくつか(大きな)欠点もある。例えば、ある栄養段階の群集(本では水平群集と呼ぶ)のみを対象としており、食物網のように複数の栄養段階の群集は対象としていない。

本書は生態学や進化生物学を専門とする学部3・4年生・・・となっているが、群集生態学の知識がない状態で読み始めても理解は難しいと思う。この本が理解できるかで、習熟度が測れるかな。

もくじ
1.はじめに
2.生態学者はどのように群集を研究しているのか
3.群集生態学におけるアイデアの発展の歴史
4.生態学と進化生物学における一般性の追求
5.生物群集における高次プロセス
6.生物群集動態のシミュレーション
7.実証研究の性質
8.実証的証拠:選択
9.実証的証拠:生態的浮動と分散
10.実証的証拠:種分化
11.プロセスからパターンへ,そしてパターンからプロセスへ
12.群集生態学の未来