2024年11月11日月曜日

生き物の「居場所」はどう決まるか

午前
・卒論手伝い(野外調査)
・Rゼミ

午後
・大学業務
・会議
・資料作成



タイトルの通り、生き物の「居場所」がどのようの決まるのか、という生態学の本質を研究史と併せて学べる本。

特に、ガウぜの競争排除則、すなわち、資源をめぐる種間競争が種の分布に影響するのか、という点(歴史的側面)についての説明に多くが割かれている。

高校でも勉強するこの法則は、自然界では、個体数は指数関数的に増加し、その結果として資源をめぐって競争が起こることを想定している。

しかし、草食動物や植食性昆虫の餌資源である植物は枯渇することなく、地球は緑の世界を維持できている。この事実は、これら動物は資源をめぐって競争していないことを示唆している。これは「緑の世界仮説」と呼ばれる。

実世界では、資源をめぐって競争が起こるほど個体数密度が増加する前に、捕食や撹乱によって個体数密度が低減されていることは様々な研究によって明らかになってきた。

つまり、密度の決定には、餌資源よりも、捕食者による捕食の影響が強いと考えられる。

このことから、生物にニッチは、対象とする生物種と天敵の相互作用によって、「天敵からの被害を少しでも軽減できる空間(天敵不在空間)」として占められる、という新しい考えが生まれた。

ちなみに、「天敵不在空間」は天敵が全くいない空間を指すのではなく、ある種が絶滅せずに個体数が維持できる環境を指す。

いわゆる、ボトムアップとトップダウン、どっちが大事?という問いである。

しかし、この本の面白いのは、この説明ではない。

1〜5章までかけて述べてきた「資源を巡る競争排除の否定」と「天敵による生息場所の制御」であるが、筆者自身がチョウの研究を通して「天敵不在空間」ではうまく説明できない現象を見つけてしまう。

そして、その説明のために、再度「競争」の概念を持ち出すことになる。しかし、資源を巡る競争ではなく、「繁殖」に関わる競争、すなわち「繁殖干渉」である。

生物の分布において繁殖干渉が(過去の影響も含めて)強く影響していると筆者は強調する。

ただし、資源を巡る競争も存在しないのではなく、条件が揃えば生じると記されている。なお、条件が揃うことは少ないので、資源を巡る競争はあまり生じないと示唆される。

新しい概念を紹介しているということではないが(むしろ、今では必須な考え?)、分布の決定要因という最も基本的なテーマについて、その歴史変遷も含めて学べるおすすめの一冊。特に、学術書よりも新書の方が読みやすいという方は手に取りやすいかと。

目次
第1章:「種」とは何か
第2章:生き物の居場所ニッチ
第3章:ニッチと種間競争
第4章:競争は存在しない
第5章:天敵不在空間というニッチ
第6章:繁殖干渉という競争
終章:たどり来し道