匍匐前進が続く。続いているので、終わっていない。
時間的余裕は全くないのだが、GWっぽいことを何もしていないので、本ぐらいは読もうということで、楽に読めそうな本を一冊。
働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)
とても面白かった。お勧め。
進化に関する基本的な記述はあるが、進化についてきちんと理解してから読んだ方が、より面白さが理解できると思う。例えば、働きアリは全てメスで、女王アリを世話することに徹し、自分では卵を生まない。実はこれ、進化上ではとても不思議なことだけど、疑問に思わない人は、こちらを読んでから、この本を読んだ方が良いと思う。
アリを中心に社会性昆虫の最新の話題を分かりやすく紹介している。やはりメインは、タイトルにもなっている「働かない働きアリの意義」である。
筆者らはアリを飼育観察した結果、働きのアリの中には働かない個体がいることを発見した。彼女らは何の為に存在するのか?ただの怠け者?それとも、、、。そこで、働かない個体ばかりで巣を作ってみると、、、一部の個体が働き始めた。逆に、働きものばかりで巣を作ると、今度は、一部の個体が働かなくなってしまった。これは人間社会でも知られており、「2:8の法則」や「パレートの法則」と呼ばれている。
では、なぜ、働ける能力を持っているのに働かないのか?そこで登場するのが、「反応閾値」という概念。反応閾値とは、個体が、ある刺激に対して行動を起こすために必要な刺激の量、のことで、これこそが、社会性がうまくいくとても重要なことであると、筆者は主張する。
例えば、幼虫に餌をあげる、という仕事があるとする。ある個体は、1匹の幼虫が「くれ」とせがむとすぐにあげる、つまり、反応閾値が低いとする。一方、ある個体は、30匹の幼虫が「くれ」とせがむと、しょうがないあげるか、と行動する、つまり、反応閾値が高いとする。
すると、当然、最初は少数の幼虫が「くれ」とせがむので(お腹の空き具合に個体差があるので)、反応閾値の低い個体が餌やりをするが、彼女だけでは対応しきれず、腹を空かせた幼虫はドンドン増えてくる。すると、とうとう30匹の幼虫が「くれ」とせがむ。そうなると、反応閾値の高い個体が応援に駆けつける、ということである。
皆で一斉に働いた方が良いのでは?と思うが、一斉に働いてしまうと一斉に疲れてしまい、それが進化上不利益を被ると考えられているそうだ。例えば、卵の世話などは短い時間でも休んでしまうと致命的なダメージを受ける。したがって、普段は働かず、ここ一番で活躍してくれる存在は不可欠ということ。
他にも、「同じ社会性昆虫でも、アリ、ハチ、シロアリでは繁殖様式が異なるため、巣内の遺伝的多様性が異なり、それが社会性維持にどのように影響するのか」、「遺伝的類似性に基づく娘と母親の対立」、「雄の存在意義」、「ある意味不死身のシロアリの女王」、など、とても勉強になった。
人間の会社のように上司がいなくても、効果的に社会性が維持される社会性昆虫の世界(女王は指令を出さない)。最近はあまり上手く回っていない会社が多い気もするけど、、、。そういえば、踊る大走査線2のテーマは、上司を置くピラミット型組織と、個体が判断する並列型組織の対決、、、人と社会性昆虫の対決だと思って観ると面白いかも。
そして、最後に、考えさせられる一文が。教科書を読む際には、「何が書いてあるかを理解する」だけでなく、「何が書かれていないのか」を読みとることが大事であると。新しいことを発見するのが科学なので、教科書を読んで、「何が分かっていないのか」を見つけなければ。