2012年8月5日日曜日

交替性転向反応

ソーティング×2(6/18)。研究室の片付け。カブトムシの交尾環境作り。学生原稿の添削。

成績付けで、レポートを読んでいたら知らない論文を引用している学生がいた。

無脊椎動物における交替性転向反応研究の展開と問題点について
河合 (2011) The Japanese Journal of Animal Psychology, 61: 83-93

交替性転向反応に関する研究の総説。とても勉強になった。

交替性転向反応とは、連続分岐点において、動物が前の分岐点とは異なる方向に曲がる傾向のことで、ワラジムシ類を使った迷路実験で簡単に観察することができる。

ちなみに、この現象はワラジムシ類だけでなく、色々な動物でも観察ができるのだが、実は脚のないゾウリムシでも観察できるのは興味深い。

ホントに参考になるのだが、謝辞をみると、卒論を改訂したものらしい、、、スゴい。

1)自発的交替行動(SAB)。ラットをT字迷路に入れ「右」に曲がったとする。再度、同じ迷路に入れると「左」に曲がる行動をとりやすく、これをSABと呼ぶ。これは、後の実験で、「右」の次に「左」に曲がるのではなく、「右」ではない新規の方向に曲がる、のようなラットが自発的に曲がる方向を決定していると考えられるようになった。交替性転向反応は、前に曲がった方向の外的刺激により次の曲がる方向が決定するので異なる現象として扱う。

2)迷路実験の際に注意すべき変数(これはとても勉強になった)。迷路実験には注目すべき変数が4つある。その4つは、図のS-Fの距離、F-Cの距離、Fの回数(方向選択の前に同じ方向に曲がる回数)、Fの角度である。


2a:S-F)甲虫幼虫で、S-Fの長さが長くなるほど交替性転向反応の出現が増加する。ワラジムシ類ではこの現象は確認されていない。

2b:F-C)F-Cの距離が長くなるにつれて交替性転向反応の出現が減少する(長くなると逆方向に曲がらなくなる)。ただし、この解釈として、距離(作業量)と時間のどちらが影響しているのか、については議論が多くされている。

2c:Fの回数)ワラジムシ類では、同じ方向に曲がる回数が多くほど、選択的な曲がり角では逆に曲がる。

2d:Fの角度)Fの角度が急なほど交替性転向反応が強く現れる。

3)交替性転向反応のメカニズムとして3つの仮説がある。 一つ目は、反応静止の理論で、動物がある反応を起こしたときには、その反応を抑制するような作用が生じる、というもの。F-Cの距離やFの回数などは、これで上手く説明できる。

二つ目は、走触性である。ワラジムシ類は壁と接触しながら前進する傾向がある。また、分岐点にさしかかった場合、それまで接触していた壁側の方向に斜めに移動する傾向にある。結果、分岐点の度に反対の側面が接するように歩くことになる。ただし、壁のない状況でも交替性転向反応がみられることもあり、完全には説明できていない。


三つ目は、現在最も主流の左右の脚の作業量差にを均等にする(BALM)、というもの。星(1958)は、ベルトコンベアでフナムシの左右の作業量を変化させる実験を行った。また、Hughes(1985)は、3回強制的に左に曲がらせ、次いで、右に1回曲がらせた後、曲がる方向を選択させる実験を行った。単純に逆方向に曲がるのであれば、左に曲がるが、結果は、右に曲がった。つまり、左×3の負荷が右×1では相殺されないためであり、BALMの予測と一致する。

4)実験計画、および、他の研究との比較には、上記の変数を注意すべき。森山はオープンフィールドにおける行動をBALMで議論しているが、迷路実験の結果をそのまま利用するのは慎重を要するべき。ワラジムシ類はBALMで説明であるが、脚の無い動物なども交替性転向反応を示しており、様々な動物を含めた包括的な議論をすべき。

迷路実験で注意すべき変数は非常に勉強になった。学生実験の課題などでこの変数を変化される実験をやったら良いかも。ワラジムシ類だけでなく、他の動物の記述も豊富。Hughes(1985)とか星(1958)の実験アイデアも単純だけど、とても面白い。

写真を見る限りでは、筆者達は迷路作製にレゴブロックを使っているのか?

必読論文。