日曜日の話。
随分と前だが、両手で荷物を持ったまま転び、顔面を地面に打ち付けてしまった。
怪我は大したことなかったのだが、メガネの右目レンズが傷だらけになった。しばらく放置しておいたが、やっと購入する決心がつき天神へ。
で、ついでにジュンク堂をウロウロ。やはり本屋には定期的に行くべきだなと思った。検索ではひっからない面白そうな本が色々とあった。
消えるオス:昆虫の性をあやつる微生物の戦略 (DOJIN選書)
著者は、学会のシンポジウムのために本学に来て頂いことがある陰山先生。ボルバキアという宿主の性を操作する細菌の研究者である。
実は、ダンゴムシはボルバキア研究では有名な動物であり(フランスで良く研究されている)、その話をして頂くためにシンポジウムに参加してもらった。そのときの発表の一部は、日本土壌動物学会誌の総説として発表されているので、興味のある方は是非、読んでください。
さて、本の中身であるが、著者の専門であるボルバキによる性の制御の詳しい話から、近年、新発見が相次いでいる微生物(ウイルスも)による宿主制御、そして、微生物を使った応用の話まで、幅広く紹介している。
動物の食べる餌の種類や行動が、実は感染した微生物により制御されているという事実は、動物の見方を大きく変えるだろう。また、人の胎盤が形成されるにはウイルスの働きが必要という事実は、ヒトという枠組みをどのように捉えれば良いのか考えさせられる。
このような新発見から、動物を完全に理解するには、自身のもつ遺伝子(ゲノム)だけでなく、そこに付随している微生物のゲノムも含めて解析しなければならないことを教えてくれる。
脚注も多く、専門知識がなくても十分に読むことができるが、冒頭に性決定の遺伝子の話が登場するので、(とてもわかりやすいが)苦手なヒトは軽く読んで、次に進んでも良いだろう。
ただ、著者には申し訳ないが、個人的に一番興味を持ったのは、CTVTとDFTDのとこであった。このアルファベット4文字で表されているのは、いわゆるがん細胞で、前者は犬、後者タスマニアデビル、で見つかっている。
がん細胞は、ヒトにとってもとても厄介な病気であるが、唯一の救いは、ヒト間で感染しないことだろう。というのも病原菌がいるわけでなく、体内の細胞が暴走しているのが原因であるからである。
しかし、犬とタスマニアデビルでは、このがん細胞が個体間で感染をするのである。しかも犬では重症にならないが、タスマニアデビルでは感染すると死んでしまうのである。がんの伝染が哺乳類で起こっているという事実、そして、このがん細胞は1990年代に突如として出現したという事実は、何とも言えない怖さを漂わせる。
文章も読みやすく、ネタも面白い。一気に読めるオススメの一冊。
もくじ
1.オスがいなくなる
2.覆される性
3.遺伝子の戦い
4.宿主の性を操作する微生物ボルバキア
5.ボルバキアの勢力拡大
6.種の興亡
7.暴走するゲノム
8.共生微生物と宿主との相利共生関係
9.共生微生物を利用して何ができるか?
10.自然を理解することの意味