2024年8月16日金曜日

ザトウムシ:ところ変われば姿が変わる森の隠遁者

午前
・卒論手伝い(野外調査)

午後
・授業手伝い
・データ整理

丸ごと一冊、鶴崎先生の専門であるザトウムシを扱った本。

ただし、単にザトウムシの分類や生態を紹介しただけの本ではない。

鶴崎先生自身の調査結果を、繁殖戦略や群集生態、マクロ分布パータンの法則などと照らし合わせて議論・解析がされている。とても勉強になった。

鶴崎先生の主な研究手法は、広範囲のサンプリングで得られた標本の形態観察と(染色体の)核型分析である。飼育実験も行われているが、前者が主であることは間違いない。

染色体観察という必殺技はあるものの、分布調査と形態観察は誰にでもできる。しかし、多くの場合、「●●に▲▲が居た」や「▲▲は■■の形態をしている」と単に事実を記載して終わってしまう。

一方、本書では、ザトウムシ研究を通して発見した地理的分布のパターンや特殊な形態を作り出す進化メカニズムに言及しており、とても読み応えのある一冊となっている。

しかも、その議論の範囲は広く、雄・雌先熟、地理的単為生殖、オスの2型、クライン・交雑帯と種認識、マクロ分布の法則(逆ベルクマンの法則、ラポポート則、種数-標高、種数-面積)、ミューラー型擬態、排他的分布と繁殖干渉、形質置換など、様々な角度から自ら見つけたパターンの説明を試みている。

加えて、染色体の変異に関する議論も行われている。

このように議論をするには、当たり前だが、これらの知識を持ち、深くその意味を理解していなければならない。

逆に捉えると、このような知識を持っていれば、単に生物の分布を調べたり、形態を観察するだけでも、様々な疑問が生まれ、そして、それを解く面白さを体験することができる。

生物の多様性を深く理解するには、生物の観察だけでなく、文献を読み知識をつけることが非常に重要であることを痛感させられる。

ザトウムシの一般的な形態的特徴や生活史の説明もあるが(30種のカラー写真や採集・保管方法の解析もある!)、本書はザトウムシを紹介した本というよりも、ザトウムシを通して、生物の多様化メカニズムに迫る本という印象を持った。

生物地理(分類?進化?)の研究者が、どのように生物を観察しているのか実感できる一冊。ザトウムシに興味がある人だけでなく、生物採集や生物観察から学術研究にステップアップしたい人にもおすすめ。

目次
第1章:ザトウムシとは
第2章:1年をどのように過ごすか
第3章:地理的変異と分布
第4章:日本のザトウムシ研究の開拓者
第5章:ザトウムシ雑学
第6章:採集の方法と標本の作り方
第7章:日本産ザトウムシ30種のプロフィール