私の恩師の師匠にあたる青木淳一先生の新刊本。土壌動物、とくにササラダニの分類では、世界的に有名。
むし学
元々、昆虫少年でなかった私は大学の時、青木先生の講義を聞いて土壌動物に興味を持った。幸運だったのが、青木先生は英語の論文は当然の多いのだが(300編以上?)、日本語で書かれた本も多く、それを読んでどんどんこの世界にハマっていった。
この本の対象は、高校生から大学生低学年、また、退職後の方々だそうだ。ちょうど当時の私みたいな人達か。
個人的には、専門的な内容を期待したので、ちょっと残念な部分もあったが、「むし」を研究することの魅力が存分に書かれていると思う。
ちなみに、むし学の「むし」は、昆虫ではない。これはこの本で強調されている。昆虫を扱う学問としてEntomologyがあり、日本では「昆虫学」と訳されるが、本来は、クモ、ダニ、ムカデなども含む学問だとか。で、「むし学」と訳すのが適切だ、と。ちなみに、昆虫は、Insectなので、昆虫学ならInsectologyになる、とか。
研究する上での実際のテクニックから心構え、さらには、偉人列伝から自分の海外調査についてまで、広く書かれている。気楽な気持ちで読んだ方が良い。
とは言え、おぉっ、と思う文章が随所に。いくつかを簡略して。
昆虫の英語はinsectであるが、もっと広く虫を指す英語としてbugsがある。バグズライフか。
家の中の虫を駆除することの無謀さを表して、「この地球上で1種の生物もいない場所と多くの生物が住む場所はあるが、1種だけが生息する場所はない」、と。なかなか名言では。
大学で好きなことよりも、就職のことを考えて研究テーマを考える学生をやや皮肉る文章中に、「わが国では苦しんでやったことは褒められるが、楽しんでやったことはあまり評価してくれない。」、と。楽しんでやった方が熱中できるのに、と。
漢字の本当の意味。蟲は現在の虫とほぼ同じ意味で、虫はマムシを意味する漢字だったそうだ。日本ハチュウルイ学会は、あえて、爬蟲類を使っているけど、爬虫類の方が正しい、とか。