2014年9月12日金曜日

奇人

Burmoniscus論文のお絵描き、冷凍ダンゴムシ実験、および、先日の調査の標本が届いたので1点のみ整理して終了。

先日の調査の遊び道具として持参した本。


裏山の奇人: 野にたゆたう博物学 (フィールドの生物学)

裏山という身近な自然も”じっくり”と観察すれば、新しい発見があることを熱く語りかけてくる。しかし、この”じっくり”のレベルが違う。

例えば、警戒心の強い野生の動物を観察するには、ジッとすることが重要であることに気づいた筆者は、ただひたすら待つ、という、最強にして、最高の方法で観察を行う。また、いわゆる裏山だけでなく、熱帯調査についても書かれており、攻撃性の高い熱帯の蟻には、必殺の武器を手に気合いで近づいていく。

筆者の専門は、好蟻性昆虫の分類・生態で、とくにアリヅカコオロギという、蟻の巣の中に生息するコオロギで興味深い発見をしているが、決してそれだけには留まらない。

本のタイトルにもなっているが、裏山というありふれた自然においても、脅威的な観察眼により、カゲロウによるシロアリの捕食やガの幼虫(毛虫)によるカイガラムシの甘露の摂食など、重要な発見を多発している。

少年時代から大学、そして、現在(ポスドク)という時系列で書かれているが、いずれの時期のエピソードも驚くほどに濃密である。言葉の言い回しも素晴らしく、大御所研究者の回顧録の様にすら感じる。文章も上手で、一気に読んでしまった。

エピソードが抱負過ぎて、抜粋して紹介するのも難しいが、やはり旬なネタとしては、熱帯調査でデング熱に感染したことだろう。田舎の病院では適切な処置がされず、生死の狭間をさまよったらしい。

熱帯には命を脅かす様々な感染症があり、その幾つかが紹介されているのだが、その中に、ヒトヒフバエ、というのがあるのだとか。あまりにも衝撃的ななので、リンクは貼らないが、興味がある人は検索して欲しい。グロテスクではあるが、生物の途方も無い多様性を痛感せずにはいられない。

また、とても考えさせられたのが、「生態学者は絶対に森から生きて帰らねばならない。なぜならば,フィールドで死ぬ生態学者は,国民(税金で研究をしているので)と帰りを待ち続けている人々に対する裏切り」と述べているコラムだった。不慮の事故で無くなった生態学者が多数おられるが,出来る限りの予防をしようと考えさせられた。

かなりオススメの1冊。筆者の、ただただ生き物のことを知りたい、という、純粋で、かつ、熱い思いを感じずにはいられないだろう。そして、だらだら生活している自分を恥ずかしく思うだろう。

ポスドクという不安定な環境で研究を続けている筆者を助けるという意味でも、是非、購入をして読んでみて下さい。

ただ、1つ。タイトルはもう少し分かりやすい方が良かったのでは?

もくじ
1.奇人大地に立つ
2.あの裏山で待ってる
3.ジャングルクルセイダーズ
4.裏山への回帰
5.極東より深愛を込めて

上記の筆者も著者の1名として加わっている図鑑。面白そうだけど、ちょっと高いので、と敬遠していたが、これまでの苦労に敬意を表して購入させて頂きました。


アリの巣の生きもの図鑑