2013年8月20日火曜日

シロアリ

東京大と横国大のお絵描き終了。貴重な標本が2名の方から届いた。明日から、こちらにも手を出したい。

結構前に入手したのに放置していた本。著者は、進化生態学の日本のエースといっても差し支えないであろう、スゴい人。年齢は私とあまり変わらないが、、、。


シロアリ――女王様、その手がありましたか! (岩波科学ライブラリー 〈生きもの〉)

シロアリと言えば、家を食べてしまう害虫として有名。昆虫学の世界では、このように人に害を及ぼす虫は良く研究されている。キット、シロアリも良く研究されているのだろう、、、と思ったが、筆者はこの10数年の間に、驚くべき発見を連発している。

1.巣の中に普通は1匹の女王のみが君臨するアリに対し、シロアリは王と女王が君臨し、王と女王が交尾をして息子、娘を産み、これらが働きアリになる。アリとの大きな違いは、シロアリは娘がそのまま女王(二次女王と呼ぶ)になり王と交尾する点で、この近親交配と羽アリの性比の関係は以前から疑問をもたれていた。
 そこで、二次女王の遺伝子を調べたところ、、、二次女王は「女王の遺伝子しか持っていない」ことが分かった。どういうこと???つまり、女王は、繁殖しない働きアリを産むときは雄の精子を利用するが、繁殖する二次女王を産むときは自分の遺伝子しか使っていない!
 これは、遺伝子レベルで見れば、雌は永遠に生き残ることなる(ただし、二次女王は女王のクローンではない)。女王は王を裏切り、自分の遺伝子を残している、、、これが進化の本質である。

2.著者は、シロアリの卵の塊の中に、同じような大きさの丸い物体を発見した。当時、これが何なのか知っている人は世界中に一人もいなかった。色々と調べた結果、菌核菌と呼ばれる菌の一種であることが分かった。その後の研究により、この菌核菌は大きさと匂いでシロアリの卵に化けて世話をしてもらっていることも明らかとなった。
 さらに面白いのが、カビがどのようにして卵に化けたのかという謎で、これは、シロアリが卵を認識するのに木材を分解するための酵素を利用しており、菌核菌も元々この分解酵素を生成していており、それをシロアリの卵に化けるのに使ったというのだ。進化とは不思議なものだ。

この2つの世界的大発見の他にも、二次女王への発育を制限するフェロモンの発見や同性のタンデム行動の適応的意義の発見など、さらっとスゴい発見が書かれている。

生態学や進化学の知識が全く無い人がこの本を読んでも、このスゴさは良く分からないかも知れない。なので、進化・生態学を勉強した大学生には是非読んでもらいたい。もし、この本の面白さが分からないならば、進化・生態学をあまり理解できていないのかも、、、。知識は世界観を変え面白いことが増える、だから、勉強する、、、勉強をする意義ってこれで良い気がする。

ちなみに、著者は、卵に擬態する菌核菌を使ったシロアリの駆除方法なども考えているそうで、基礎研究の充実が応用されるという研究の理想系を体現しつつある。

さて、ここにきて、文頭の疑問、シロアリは世界的な害虫で良く研究されているはずなのに、なぜ、こんなにも多くの大発見ができたのか。もちろん、知識やセンスもあるのだろうが、理由の一つが、種によってはシロアリの王と女王を採集するは非常に難しいことにあるらしい。

では、この難しいシロアリの王と女王をどのように採集するのかというと、、、過酷な野外調査らしい。ちなみに、その野外調査は、指導学生にケンジズ・ブートキャンプと呼ばれているのだとか。もし、オリンピックに、ヤマトシロアリの女王探し、という種目があれば、ボルト並みの力を顕示できると書かれていることからも、ずば抜けた力があるのだろう、、、。

この手の本の楽しみの小ネタもチャンとあります。自由な気風の京都大では、「先生の言うことを聞くな」という先生がいるらしい、、、ちなみに、本学にいる京都大出身の先生も同じことをたまに言っている。京都大昆虫研では「生意気」や「変人」が褒め言葉。著者は、学生時代に下宿のコタツでシロアリを飼っていた。斧、ナイフ、ノコギリを持っていたらパトカー3台に囲まれた、などなど。

そして、最後に感動の一文。著者の父親は「人は優しいよ、自然は厳しいよ」を子どもに教えるのが父親の役割とおっしゃっていたらしい。著者は、人には優しく、自然には謙虚に接することを心がけているとのこと。私もそうありたい。

目次
1.シロアリとの運命の出会い
2.シロアリとは何者か?
3.カップル成立
4.女王の分身術
5.女王様のワインの香り
6.シロアリに化けるカビ

日本の進化生態学の最高峰を体感できる必読の一冊です。