アリ同定と古い標本整理で午前中終了。午後は学生実験で鳥取砂丘へ。
30℃を超えていたので、とても心配していたが、砂丘は風があり、最悪の状況は避けられた。
大学に戻り、書類を提出して、文献読みをして終了。
深海生物テヅルモヅルの謎を追え!: 系統分類から進化を探る (フィールドの生物学)
このシリーズは好きだ。しかし、この本の存在を知った時、購入しようか迷った。
まず、テヅルモヅルにピンとこなった。そして、私は深海生物が苦手だ。深海には、多様かつ未知の動物がいることは良く分かっている。
私のフィールドである土壌もまた、多様かつ未知の動物が多く、ある意味では似たようなものだろう。では、なぜ、深海の動物が苦手なのか。
それは、土壌の動物の多様性の多くは節足動物が占めるのに対し、深海は門レベルで多様であるため、私のような素人には、むしろ違いが分かり難い(比較ができない)からである。逆の意見もあるだろう、、、。
しかし、著者を見て購入することにした。学会で何度かお会いしたことがある方で、印象は、分類学の王道を進んでいる人、である。そこで、分類学の王道の歩み方について知ってみたいと思ったのだ。
この本を読んで北海道大学の分類出身ということを知り、やはり、と思った、、、が、珍しい生物への関心はあったらしいが、分類学者に良くいる、子供の頃から標本を集め、大学入学と同時に研究室を訪問して、、、ということもなく、卒論ネタは、図鑑をパラパラめくって決めたそうだ。
しかも、その理由は、「かっこいい」、「何も知らない」から。でもこれが運命的な出会いとなった。その後は、調査船での採集、海外の博物館での標本観察と、正に分類学の王道を進んで行く。
しかし、博士論文の執筆に際し、指導教官から「なんかおもしろいことないの?」と声をかけられる。ただ、新種を記載し、DNAで系統関係を明らかにしただけでは足らず、生物・進化学的な発見も求められたのだ。
そして、筆者は指導教官からのコメントに、水深と腕の分岐の関係に関する新しい仮説の提唱、という形で答えた。
この仮説を思いついた大きな要因は、卒業研究時代の文献集めにあったそうだが、その文献集めの重要さを教えてくれたのは卒論の指導教官の一人で、文献集めは「ボディブローのように後からじわじわ効いてくる」と助言をくれたらしい。
指導教官の助言と学生の態度、両者が見事にかみ合い、分類学の王道を進む研究が育てられたのだなと思った。
著者は日本動物分類学会奨励賞を受賞するのだが、その際には、卒論の指導教員の一人(上記とは別)に、研究は「楽しければいいのか?」と言葉をもらったそうだ。研究者として批判も受ける立場になり、どのような目的で研究をするのかの模索が始まったようだ。きっと良い答えを見つけてくれるに違いない。
著者のように「大学に入学し、友達を作り、バイトやサークル活動に明け暮れ、酒を呑む」大学生活をしている人に是非読んで欲しい一冊。
ちなみに、テヅルモヅルとは、クモヒトデと呼ばれる動物の一つのグループのこと。で、クモヒトデは、ヒトデではなく、、、興味のある人は、この本を読んで欲しい。
もくじ
1.系統分類学に出会う
2.テヅモヅルを収集せよ
3.海外博物館調査
4.ミクロとマクロから系統を再構築する
5.系統・分類学から進化を探る