2022年2月18日金曜日

学術出版の来た道

午前
・会議(オンライン)
・標本整理

午後
・最終講義(オンライン)
・標本整理

学生時代の指導教員の最終講義をオンラインで拝聴。

3つの大学を渡り歩いたので、3名の指導教員がいるわけだが、今年の3月末をもって全員退官されることになる。

昼ごはんを食べながら読んでいた本。

学術出版の来た道

普通、研究論文といった場合、学術雑誌に掲載された論文を指す。特に、掲載に際して第三者による査読が有ることが重要で、査読のない雑誌に掲載された論文は、研究業績として評価されないことも多い。

そんな、学術雑誌に関する本である。

題目の通り、学術出版の歴史の解説もあるが、むしろ、その発展にともなう現在の問題点の提起が主題である。

上記のように学術界に身を置く以上、査読付きの学術雑誌に論文を掲載し続ける必要がある。さらに、学術雑誌には(暗黙の)ランクがあり、ランクの高い雑誌に掲載されると、より大きな評価が期待できる、、、ということで、普通は、ランクの高い雑誌への掲載を目指す。

そこに問題が生じる。

学術雑誌を出版する母体は普通、学会か民間の出版社である。近年、ランクの高い雑誌の多くは民間の出版社が出版している。

つい10年ぐらい前までは学術雑誌は正に雑誌で、図書館が購入し、そこに研究者がコピーに行くのが普通であった。しかし、近年では、電子ジャーナルと呼ばれ、論文がPDFで公開されることが多くなった。

このPDFを無料で配布していては企業として成立しないため、論文1本いくらと値段が決められ販売されている。

しかし、大学は普通、出版社と契約し、教員や学生は大学のシステムを通すことで無料で論文を閲覧することができる。

全ての論文が対象となるわけではないが、様々な雑誌に掲載される論文を鳥取でも読むことができ、今となっては、このシステムがなければやっていらない。

で、問題は、その契約金である。日本の大学の図書館全体で年間300億円にのぼり、大学運営に大きな影響を及ぼし始めている。

だったら契約をやめればよいのだが、以下のようなフィードバックも働くため契約をやめることが難しい。

「契約金の高い大手の出版社は読者が多い」→「沢山引用されて雑誌の評判が高い」→「 (研究者は)そこの雑誌に掲載したい」→「雑誌の評判が上がる」→「読者増える」→「評判上がる」→「掲載したい」、、、

これは世界的に問題となっており、打破するための色々な方法も検討されてきた。

その一つがオープンアクセス(OA)である。OAとは、ネット上に無料で公開される雑誌のことで、これなら無料で読めるため出版社との契約が不要となる。

この仕組みの最大の問題は、無料で公開するので、このままでは企業の収入がないことだ。

そこで、OA雑誌では、研究者が掲載費用を支払う。その金額は様々であるが、有名どころは数十万円に達する、、、私の1年間の研究費である。

重要なことは、契約料であれ、掲載料であれ、本来は研究費(もしくは大学の運営費)であり、これに使用なければ、研究や人件費に使用できるのである。

そして、この問題の根底には研究者の評価が関わっている。論文数、掲載雑誌などが評価に関わるため、「掲載したい」雑誌があり、そこに掲載されるためなら、ある程度の支払いも受け入れてしまうのである。

自分のお金じゃないからだろ、と思われるだろうが、そもそも、研究費を得るために、人気のある雑誌に論文を掲載する必要があり、評価を受けたことで得られた研究費で、、、とフィードバックが止まらない。

そこで、最近、「研究評価に関するサンフランシスコ宣言」という、研究評価そのものを再検討する宣言も出された。慣習がすぐに変わることは難しいだろうが、自らを首を絞め続けている現状を改めなければならないことは間違いない。

学術出版の大手は全ては海外であるが、元々は情報を収集することが金儲けになる、という発想にある。現在では当たり前の考えだが、数十年前にこのような発想をもち実行に移した人達の活躍は素晴らしいことである。

もくじ
第1章.学術出版とは何か
第2章.論文ができるまで
第3章.学会出版のはじまり
第4章.商業出版のはじまり
第5章.学術出版を変えた男
第6章.学術誌ランキングの登場
第7章.オープンアクセスとビックディール
第8章.商業化した科学と数値指標
第9章.データベースと学術出版